Ken Kagami

加賀美健が生む、摩訶不思議なジョークたち。

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「僕の店、ここから近いんですよ。後で寄っていきますか?」。現代美術作家の加賀美健は代官山のとあるピザ屋にて、二つ折りにした紙皿で大きなスライスを器用に包んで食べながら、自分で運営するショップへと気さくに誘ってくれた。このチャンスは逃せない。なぜなら、彼が店を開けるのは一日で2時間だったり、はたまた開いているはずの平日に開いていなかったり。そんな気まぐれ亭主の店“strange store”は見つけるのも一苦労なのだ。

Photography by Reiko Touyama
Text by Aya Tsuchii
Edit by Akira Takamiya, Ayumi Kinoshita

 「店は僕の作品のようなもの。拾ったものも多く置いていてカオスです。スタジオよりも物で溢れていますから」。ピザ屋から徒歩約5分の場所に、“strange store”の手書きの看板があり、そしてさらに細道の奥へ進んでいくと日常感溢れるアパートにたどり着き、301号室に店はあった。店内は綺麗にカテゴライズされてはいるが、フロア、壁、天井まで彼が集めたグッズ、作品、そして謎のグッズで溢れ、素人目では商品とコレクションの区別はできない。思わず笑ってしまうジョークまじりのアイテムや、愛嬌のあるキャラクターグッズの数々が生き生きとしている、そんなアンダーグラウンドな空間だった。


 店を訪れる人との交流は彼のインスピレーション源。「僕にとって店での出来事が作品なんです。『<実家帰れ>シールはありますか?』って質問、凄くないですか? その言葉がもうアートだと思う。『今ないから書いてあげますよ』って手書きしてあげることもあります」と笑う。「中学生、高校生も来てくれる。意外と女性も多いです。なるべく会話をするようにしていて、流行っている物事やどういう子がモテるのかなど、何気ない質問をします。僕もこの歳だし、普通に生活していたら中高生の子達と話す機会なんて無いし、知り合うことすらないから。そうやって出会った子たちが、気づけば大人なっているんですからね」。オープンして8年。ここがきっかけで親交が深まり、様々な物語も生まれる。彼は、店で若いアーティストの作品を展示することもあれば、イベントやブックフェアなどの参加を促したり、積極的にチャンスを与えているように見える。「面白そうな子だなと思って話してみると、だいたい当たっていて。そういえば、こないだお店のお客さんから手書きのハガキが届きまして。その子は、今は彼女と洋服作っている子なんですけど。以前にここで展示してくれたこともあった。『健さんとの話や作品の影響が今の自分の活動に繋がっています』って。嬉しくて涙出そうになりました。手紙で書かれるとぐっときますよね。この歳になるとそういうのがとても嬉しいですね」。



 もともとはスタイリスト志望だった彼は、アシスタントを6年間勤め上げた経験の持ち主。「ちゃんと卒業したんですけど、スタイリストにはならなかったんです。僕は極力一人で完成させることができる仕事がしたくて。スタイリストはたくさんの人と作り上げる仕事。僕には難しいかなと。洋服は好きだし、スタイリストという職業もとても憧れているんですけどね」。そして彼は、サンフランシスコへ向かった。「初めてサンフランシスコに行った時、肌に合っていると感じたんです。変な人がいっぱいいて、日本にはまず落ちていないゴミとかがいっぱいあって。ゴミの写真ばかり撮っていましたね。あと、治安の悪いテンダーロイン地区にはホームレスがたくさんいるんですけど、昼間はおもしろい。店もたくさんあって、そこでスリフトショッフ通いに目覚めました。サンフランシスコにいたのはだいたい2年弱くらい」。そして次第に明確なビジョンが見えてきたという。「アーティストになろうと、作品を作るようになっていった。絵も上手くないし、技術も無かったんですけど、昔から手を動かしてものを作ることが好きだった。アイデアを練ったり、考えたりすることも。2001年に帰国して、2003年に初めて展示させてもらうことができたんですけど。2年間は作品を作って、ギャラリーなどに見せに行ったりしていました」。





 彼の初期の作品は今とは少し異なる。「おもちゃや既存のものを組み合わせた立体作品が多かった。新しいものを使うわけではなく、使われたものに興味があった。お金もなかったので、材料費が極力掛からないものや、面白いものを拾っていましたね」。最近ではイラスト作品や独特な言葉のフレーズを使った作品がより印象的。「写真や落書きは、インスタが流行ってから広まっていった。でもインスタが流行る前から記録の意味も込めて、ブログに作品をたくさんのせていたんですけどね」。馴染みのある、変なフレーズやゆるい絵、そしてジョークを交えたシニカルな作風。中でも言葉の面白さに惹かれているそう。「絵はずっと見ていると飽きちゃうけど、言葉はずっと変わらず世代を超えて共有できるもの。面白い言葉って死ぬまで面白い。僕のやっていることって昔から簡単なんです。でも、簡単なことをやるのって、意外と難しいんですよね」。

 ハズし方やオチは、長年の経験から体に染み付いている。「時間をじっくりかけてネタを考えたりはせず、自然と出てくる。説明しにくいんですけど」。自身の個展でのショップスペースの壁に「<現代美術よくわからない>」と書いたり、製作したドキュメンタリー映像作品ではインタビュアーの質問にすべての内容を含ませた上で、答えはすべて「“I Don’t Know”」というシュールな状況を作り出したり。摑みどころのない、実態がわからない作品が多い。現代アートはわからないと話ながらもアート独特の世界観に魅力を感じている。「おもちゃはおもちゃでしかないのに、アートの世界では別の価値を見出せたりする。その特徴も含め、アートやファッションなど、カルチャー自体で遊んでいきたいですね。それに僕は、真面目なトピックをジョークで答えていく表現が好きなんです。ふざけたトピックをふざけた作品で表現するのはナンセンス。感心あるものは世間で起こった事件や事故などの時事ネタで、それをポップに変換するんです。風刺的に。見たものをダイレクトに表現する人たちはそれで凄いんだけど、僕は違うんです。その方が評価されやすかったりもするけど、そこには興味はないんです。トゲトゲした部分をそのまま表現したら、ちょっと見る人も嫌なんじゃないかなって思うんです。だからオチやジョークをプラスして、笑いに変換した表現をしている。真面目にやれよって思われるかもしれないけど、こっちは大真面目にやっているんですよ」。




 作家活動、ショップ運営、Tシャツブランド、アパレルコラボ、イベント企画、トークショー出演など活動の幅は多岐にわたる。最近では洋服屋など多くの場所で彼の絵や文字などの作品を目にすることも。彼に聞くとあまりコラボという意識はないという。「下北沢のパン屋『カイソ』は友達の店で、落書きしたものをあげたら、お店に飾ってくれているんです。恵比寿のスナック『モーゼの寄り道』は、オープン前に店の置物やいろいろなところに自由に落書きをしてくださいと頼まれました。氷の入れ物や壁などに落書きをしました。いろいろな企画をもらえた方が違うものができて面白い。わかりにくいと思いますが、海外や国内、仕事と作品など、実は自分の中では棲み分けをしているつもりなんです。仕事でできないことを店や自身のTシャツブランド〈C(シー)〉でやっていたり。アパレル、店、海外での作品展示など、統一感が無いけれど、それでいい。キャラが確立されすぎちゃうと、イメージが出来上がっちゃうし、僕も飽きちゃうので。僕は表現方法もいろいろ。イメージや立体から、文字で遊んだり、題材も幅広い。見る人が『あれもこれもやっているんだ』って面白がってくれると嬉しいです。『加賀美さんっぽい!』って思って欲しいです」。



 「もし、アートコレクターの人が“strange store”ごと欲しいって言ったら、その人の部屋でこの店を再現することもできます。そしたら店の中も一度まっさらになって、全部変えることができますね。一回やってみたい」と、彼は空間プロデュースに興味があるようで、「部屋やホテル、公園、バスなどの内装から外装まで全部のデザインをやってみたい」と目を光らせる。「あとは警察や学校のユニフォームとか(笑)。難しいところにあえて挑戦していきたい。どうしてもアパレル関連の案件が多くなりがちだけど、異なるジャンルにも食い込んでいきたいですね」。近年では、webマガジンでの連載企画や、このタイミングで回顧展(!)を行ったり、アートブックフェアを捩った「東京アートぶっかけフェア」を開催したり、愛嬌と馴染みのあるものを生む加賀美健。これからも様々な場所で、いろいろな形で人々を刺激していく。

KEN KAGAMI/加賀美健
現代美術作家。1974年東京都生まれ。現在も東京を拠点に制作活動を行う。国内外の数々の個展・グループ展に参加。ドローイング、スカルプチャー、パフォーマンスまで表現形態は幅広い。アパレルブランドとのコラボレーションも多数手掛ける他、表参道ヒルズ、ラフォーレ原宿の広告にも作品を提供している。自身の店「STRANGE STORE(ストレンジストア)」を構え、店内では自身のコレクションや若手アーティストの展示なども行っている。
kenkagamiart.blogspot.com