Fumiko Sakuhara

作原文子が発信する、人を繋ぎ、生活に寄り添うものたち

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暖かな太陽の光が降り注ぐ、周辺景色を一望できる贅沢な一室。インテリアスタイリスト・作原文子が仲間とシェアする場所は、原宿とは思えない豊かな空間だ。部屋は工芸品やレコード、ポスターなど、個性豊かなもので溢れている。棚の中には彼女がスタイリングを手がけたページが掲載されている雑誌もたくさん並んでいた。そのいくつかの雑誌を取り出しながら、楽しそうに話し始めた。

Photography by Reiko Touyama
Text by Aya Tsuchii
Edit by Akira Takamiya, Ayumi Kinoshita

 彼女のキャリアを語る上で雑誌は重要な存在。大学卒業後、スタイリストの夢を諦めることができずにいた時、後に師匠となる岩立通子の存在を知ったのが雑誌だった。「『an・an』や『FIGARO japon』で岩立さんの名前をよく目にしていました。携帯もメールも使わない時代だったので“弟子入りしたい”という手紙を送って。しばらく返事がこなかったんですけどね。後にわかりましたが、たくさんの志願に対し岩立さんは順番に返事を出していたそうです。ある日、マンションの階段を上っていると電話が鳴っていて、部屋に駆け込み受話器を取ると、それが岩立さんでした。“今はアシスタントの空きがないけど、もう少ししたらできる。その時にまだ気持ちがあったら”という内容で、その後何ヶ月か待ちました」。



 3年にわたるアシスタント期間は彼女にとって必要な準備期間だった。「1年目はただただ何事も必死で覚え、2年目で仕事内容が身についてきて動けるように。そして3年目に人に名前を覚えてもらい、信頼関係を築くという。その為には3年掛かりましたね。お店から商品をお借りするのに信用がないと難しいし。岩立さんからはスタイリングのことよりも、人への礼儀や感謝を学びました。あと、食べること。岩立さんは食べることを大事にしていて、アシスタントのお腹をすかせない人だった。仕事にはものすごく厳しい人だったけど、ご飯だけは食べなさいっていうスタイル。弟子入りしている以上、皆が健康でいることに責任を持つ人でしたね」。彼女は人への礼儀や感謝の言葉を話の折々で口にしていた。

 アシスタント期間を経て独立した後に舞い込んできた仕事も雑誌だった。「『an・an』や『雑貨カタログ』など、雑誌で定例をいただくようになりました。ものを紹介するページや雑誌に入るタイアップの仕事が多かったかな」。そしてインタビュー中によく話題に挙がるのも雑誌。「過去の『HUgE』はいま見返しても新鮮ですね。さまざまな分野に長けた編集者が関わっていたから、いろいろな落とし所があって、読む人を置き去りにしていなかった。こういった雑誌が今も欲しいなあ」。過去に比べるとインテリアの大掛かりな撮影ペースは大幅に減少している現状を示唆し、中でも雑誌は以前のような元気がないと話す。でも彼女は自身が手がける雑誌のページ作りでは他誌と異なる面白さを追求し続けている。「近々『an・an』のインテリア撮影に携わるのですが、週刊誌のスピード感に負けない充実した提案ができたらと思っているんです。あと『TOOLS』も復活させたい。楽しみにしてくれている人は結構周りにいるんです。実現させたいな」。

 彼女が人との関係性を仕事やプライベートで何より大切にしているのは、話を聞いていてよく分かる。スタイリストになったきっかけも「人を喜ばせることが好きだから」と、人ありき。さらに、「私の作るものに共感してくれた人たち、私が提案したものを介して知り合った人たちとずっと繋がっていれたら嬉しいですね。久しぶりに会って話をしたり、困った人がいたらそのために動く。これは昔から変わらない私のスタンスです」と、常に彼女を動かす原動力となるのは人なのだ。


 作原文子のスタイリングといえば、男女問わない独特なスタイルが特徴的。メンズ&ウィメンズのファッション雑誌からライフスタイル、広告まで幅広くこなしている。ページ作りも、商品なのか部屋のドキュメントなのかわからなくなるようなリアルな雰囲気があり、そして何といっても豊富な情報量が持ち味だ。「もともとインテリア誌よりファッション誌に携わることが多かったことは、今、思えば、自分にとって大きかったなと。きっかけは『Figaro Japon』で定例ページをもらったことかな。ファッション誌は時にインテリア誌とは全く違う提案をすることができ、モデルがいる撮影もよく経験しました。インテリアをよりモードな視点で作ったり、ファッションのトレンドをインテリアに取り入れたり。自分にとっては衣食住を取り入れたスタイルの始まりだったかもしれません。ベースは一緒ですが、どこかインテリアを発展させたアイデアを実践できましたね。今の私が作る“男性的”な部屋という特徴を確立してくれたので、『HUgE』『MEN’S NON-NO』『POPEYE』や『smart』との出会いも大きかった。そう考えると雑誌の企画から始まった「TOOLS」が私にとっての分岐点だったかも。ただインテリアの構成を考えるだけではなく、人との関わりや繋がりで発展していく内容が多かったから」。そして、「それがあったから様々な人との信頼のもと、長期にわたる人間関係が築け、イレギュラーなことにも対応できるようになった」とつけ加えた。

 インテリアアイテムではないものをあえて使ってみたり、本来とは違う使い方をしていたり。彼女の斬新なスタイリングのアイデアにも触れておきたい。「マグカップにコーヒーを入れるのは誰もが日常的にしていること。だから例えばそこに花を生けたり、目線を変えた提案をしていきたいんです。雑誌は情報の発信とサービスが大事。アイデアや違った発想の提案をプラスしていきたい。読む人が少しでも興味を持ち、こういう方法があるんだとか、新しい発見があったほうがいい。柔軟に物事は考え、スタイリングに生かし、少しでも生き生きしたページを作りたいなと思います」。事前に1つ1つの細かい準備で作り込む方法ではなく、現場での思いつきも大切にしているという。「用意した素材をどう生かしていくか。空間全体の風景からイメージすることが多いですね。もちろんこのアイテム使いたいなという気持ちから始まることもありますが、このアイテムをどこの空間で、どのように置いて、何と合わせると自分が感じる“気持ちいい空間”ができるかなと。佇まいを大切にしています。厳密にサイズを測ってハメていくというよりも、もし足りない部分が出てしまったら、どう補ったらものが可愛く見えるかを考えていく。予測がつく撮影だけでなく、時にはその日の天候や光、空気感でいろいろな選択肢を持てるようにと考えています。そしてお店からお借りしているアイテムはひとつでも多く使うように心がけています」。

 さらに人やものを繋ぎ、新たなことを生み出すクリエイティブコミュニティ「マウンテン モーニング」の中心となり、ポップアップイベントを開催したりと、活動の幅広さも彼女ならでは。突き動かされる理由は作品や作家との出会いからだと言う。「これだけ素敵なものを持っている人が自分のまわりにたくさんいて、私は幸運にも彼らと触れ合う機会があって。でも、この世界観に出会う機会がない人ってたくさんいると思う。だからたくさんの人やものが出会う場所づくりをしたいなと思い「マウンテン モーニング」を続けています」と、やはり人を喜ばせたいという気持ちが強い彼女だった。

 長年情報を提供する立場にいて、彼女の中で変化してきたものがある。「今の私は新しいものやトレンドを追いかけることに少し疲れてしまっているのかも。今の自分の生活に本当に必要なもの、好きなもの、大切なものなど、気持ちでものを選ぶコトが実は大事なんじゃないかと最近は思います。物事の本質に注目するというか。今年も震災や災害などいろいろありましたよね。自分にとっても仕事の転換期でもあって。新しいものを生み出して提案していくスピード感よりも、今あるものや自分が出会ったものの魅力を丁寧に伝える方が大事だという考えが今の自分には大きいです。そういったサービスのあり方が、自分には腑に落ちるんです。住宅関係の仕事も増え、雑誌のように自分の発想を提案する内容とは異なり、この環境に何が適しているのか、せっかく買うならこの空間にはこれじゃなくてこっちがいいですよっていう、ものの本質を考える機会が増えました。靴下も、肌に触れるアイテムですよね。そしてずっと付き合っていくもの。トレンドよりもクオリティーや使い勝手など、本当の魅力を教えてあげたいですよね。今はよりリアルで直接暮らしに繋がるようなことが必要となる時代かもしれません」。

 今後の展望について聞くと、「来年またマウンテンモーニングやりたい」と、ファンが喜ぶ情報をくれた。さらに「東京だけじゃなく、いいコミュニケーションを築ける人がいたら、どんどん協力して発信していきたい」と様々な場所にも目を向けている。雑誌や広告という一方通行な伝え方にとどまらず、イベントなどで人と繋がれる場所を作っている彼女。ものが溢れ、新しいものがひっきりなしに生まれる今だからこそ、一度止まって、ものの存在意義や価値を見直す必要があるのではないか。そう考えるきっかけをくれる話だった。

FUMIKO SAKUHARA/作原文子
インテリアスタイリスト。岩立通子氏のもとでアシスタントを経験した後、1996 年に独立。主に雑誌、 カタログ、TV-CM、エキシビション、ショップディスプレイ、舞台などのスタイリングを中心に活動。 手掛ける雑誌は、『Casa BRUTUS』『Figaro japon』『an・an』『BRUTUS』『MEN’S NON-NO』などのインテリア誌、女性誌、男性誌と幅広く、日本のイン テリアスタイリストとして第一線で活躍。柔軟な感性を活かし、さまざまなテイストをミックスした 独自のスタリングは、男性女性問わず定評がある。「Found MUJI」、「INTERSECT BY LEXUS」のウィンドウディスプレイや、企業の展示会の空間ディレクションなども行う。
www.mountainmorning.jp